8月9日(金)晴れ
午前 時起床、4回目のテントの撤収をし、出発する。
今日の目的地は、九州最南端の佐多岬だ。ライダーは岬が好きである。それが、最北端のとか、最東端という肩書きのある場合は、特別な意味がある。何が何でも行きたくなってしまう。北海道では最北端の宗谷岬、最東端の納沙布岬、襟裳岬等、すでに制覇済みで、北海道の外周の道路はほとんど走っている。私の場合、観光地に行って、うまいものを食べたいとか、師勝名勝地で素晴らしい景色を見たいというのは、旅の目的ではない。旅の目的地に自分が運転するオートバイで到着することが、一番の目的で、そこで証拠の写真の一枚も撮れば満足してしまう。いつもこんな旅をするものだから、日程に無理があり、忙しないツーリングになってしまうのかもしれない。キャンプ場に泊まるのも、夕食を自炊するのも、金銭的な問題もあるが、旅のスタイルから、必要に迫られてのものである。 出発から30分程走っただろうか、パワーの出ないエンジンが心配になり、路肩にモンキーを止める。プラグは、やはり白かった。もうオーバーサイズのメインジェットは無い。 マイクに連絡を取ろうと考えたが、雑誌の切抜きをマイクのアパートにおいて来てしまった。鹿児島市内からは、かなり離れた為、タウンページでは、調べようが無い。そこで、僕は、電話で友人にオートバイ雑誌の電動ターボの記事を探してもらうことにした。近くには、公衆電話もなく、こんな時にこそ、携帯電話が威力を発揮する。
マイクに連絡を取ると、ターボユニットから空気を吸い込んでいる可能性がある。とのことである。構造上充分考えられる。キャブレターとエンジンとの間で、エアー漏れをしていたのでは、幾らメインジェットを調整しても意味はない。もう、ユニットごと外すしか無いようだ。しかし、手持ちの工具では、外せそうもない。燃料補給も兼ね、佐多町ののガソリンスタンドで、大改修が始まった。シート、燃料タンク、ユニットを外す。キャブレターから電動ターボを外し、セッティングを元に戻す。すべての作業を終わるのに、1時間程かかっただろうか。汗だくになっていた。
ガソリンスタンドで修理を終え、佐多岬を目指す。ターボを外したエンジンは快調だった。佐多岬ロードを通り、北緯31度線を越え駐車場に到着する。北海道の最北端宗谷岬のそれとは、ずいぶん雰囲気が違う。辺りを見渡すが、店のようなものは何もない。モンキーを止め、散策をする。トンネルがあった。このトンネルが岬へ通じる歩道のようである。入口には通行料200 円と看板が掲げてある。実にせこい。いつもなら歩いて目的地に行くようなことはないが、ここは九州最南端である。多少の苦労はあってもその地に立ってみたい。通行料を払いトンネルに入ると、数軒の土産物屋が並んでいたが、たいした物は置いてなかった。20分ほどアップダウンの激しい山道を息を切らせながら進む。一週間かなりの距離をモンキーに乗って移動してきたが、歩いた距離はわずかである。いつもの生活より、歩いてないだろう。足が、退化してきたようである。
岬の先端で看板をバックに記念写真を撮り展望台に登る。中にはちょっとした売店があり、「九州最南端佐多岬」と書かれた小旗を買う。ライダーは旗も好きである。
最上階にあがると、展望室があった。内部の白壁は、ここに訪れた者達の落書きで一杯であった。内容は、この岬に訪れた経過等がほとんどで、ライダーと思われるものが多かった。壁一面の落書きを見て、私も一筆書きたくなり、ペンを取った。「1996.8.9愛知県からモンキーで自走 1,600km 遠かった。」ゴミが散乱しているところに、ゴミを捨てやすいのと同じである。
佐多岬に来たんだという達成感を充分味わい、駐車場へと戻る。もう立ち寄る予定の目的地はない。後は、日南海岸をクルージングし、宮崎港のフェリーターミナルに、夕方までに着けば良い。大隅半島の中央山間部を県道を走り、田代町からR448で太平洋側に出る。後は、R448号、220号を北上するだけである。豊根村から7日間ずっと2台で走り続けてきた。ふとひとりで走りたくなり、志布志町から宮崎までの100km をひとりで走る。
ひとりは気楽である。休憩も、写真を撮るにも、相談する必要がない。すべて自分の思うような行動ができる。
途中、昨夜の学生2人が駐車場で休んでいるのを見かけた。立ち寄って挨拶の一つでもと考えたが、フェリーの出港まで時間が残り少ない。巡航スピードは、連れの88cc武川モンキーの方が遥かに早い。先を急ぐことにした。
宮崎市内に入ると、片側2車線の道路の中央分離帯に、フェニックスが植えられている。これが、私の思い描いていた、南国九州の道路である。しかし、旅はもう終りに近付いていた。 市内の南海部品で、電動ターボ補修のための液体ガスケットを購入した。フェリーでターボを組み直し、明朝組み込んで帰りたい。携帯電話が鳴る。彼はもう、ターミナルに着いているようで、乗船手続きを2人分してくれるそうである。
ターミナルで、土産物を物色する。これまでの行程では、土産物屋にゆっくりと立寄っていない。たいした観光地にも寄ってないし、土産を積むスペースは、モンキーにはなかった。宅配便がツーリングには、便利である。北海道では、フェリーターミナルで、大抵のものが揃う。今までに買った、細かい土産と、いらない洗濯物を一緒に自宅に送りつけてしまう。ずいぶん身軽になる。しかし、宮崎のフェリーターミナルの土産物屋は小さかった。宮崎名物かるかんを買い、宅配便で送る。洗濯物は送るほど数は無かった。友人の土産が見付からず、フェリーの売店に望みをかけた。
モンキーに乗り、駐車場で乗船の時間を待つ。この時間が、私はとても好きだ。旅の始まり、終りの区切りの時間である。
オートバイの数は、北海道に比べ少ない。夏の九州は、暑いというイメージがあり、ライダーは来ないのだろうか。北海道の乗船を待つ小汚ない格好をしたライダーたちの集まるターミナルが懐かしく感じる。
大阪南港行きのフェリーに乗船し、タンクバックと着替えの入ったスタッフバッグを持ち2等船室に向かう。いつもは、個室を予約するため、すべての荷物を部屋に持ち込み、整理をするのだが、2等船室では、置くスペースがない。予算が少ないため、仕方がない。 フェリーに乗船して、最初にすることは、いつも決まっている。風呂に入ることだ。オートバイの乗船は、自動車に比べ早い。船内が混み出す前に、風呂に入るのが鉄則である。 古めかしい風呂に入り、缶ビールを飲む。今日は、テント張りも、夕食の支度もする必要がない。ゆっくり船旅を寛ぐことができる。初めて夕食を食堂でとった。
夕食で、またビールを飲み、かなり上機嫌になってしまった。連れは、船の揺れで顔色が悪い。宮崎を出向すれば、太平洋である。天気予報では、台風が発生しているらしい。 船に酔う前に、酒に酔え。これも、船旅の鉄則である。売店で、友人の土産を探す。やっと見つけた、ボンタンアメ。九州土産には最適の一品だ。北海道でのバター飴と同じである。
船室で、ターボの修理を始める。マイクの親父が、プラスチック製のタービンを外すには、マイナスのドライバーでこじればいいとご指導下さったので、実行。タービンが割れてしまった。かろうじて折れていないので、修理を続行。部品の合わせ面に念入りにガスケットを塗る。手もターボもガスケットで真っ黒になる。なんとかタービン以外元どおりになった。
船は相変わらず凄まじい揺れで、エレベーターの中状態だ。連れはダウンし、寝てしまった。私もビールが覚める前に寝ることにする。
本日の走行距離 277.4km
昼食 なし
夕食 カツ定食 ビール