8月8日(木)晴れ

 午前5時起床、九州の夜明けは遅くまだ外は暗い。部屋の明りを灯し、荷造りをする。テントの撤収をする必要がないだけ、朝は楽だった。午前6時30分に出発する。

 霧島スカイラインを走り、R 223号で国分市に向かいR10号を右折、鹿児島市を目指した。久し振りに走る海沿いのルートである。交通量は相変わらず多い。

 桜島が見える場所でモンキーを止め、来年の年賀状用の写真を撮った。かなり旧いミノルタXGSには、フジカラーのリバーサルフィルム、ベルビアを入れてある。今まで、このカメラに、リバーサルフィルムを入れたことがない。正確なシャッタースピードで作動しているのか、定かでない。念の為、同じ構図でプラス側、マイナス側にそれぞれ 0.5刻みで補正をかけ、5枚の写真を撮っておいた。はたして、年賀状に使えるのだろうか。スナップ用には、ニコンのコンパクトカメラ28Tiを使用している。こちらは、普通のネガフィルムを入れて、スナップ用に使っている。心配なので、おさえに、数枚撮っておいた。 去年から写真にも凝りだしため、フィルムの本数も半端でない。今回持ってきた、フィルムは、36枚撮りのリバーサルフィルムのプロビア、ベルビア各5本、フジカラー 400の24枚撮りを5本。途中で購入した「写るんです」1個。600 枚分はある。しかし、ゆっくり写真を撮っている時間は、モンキーツーリングにはなかった。走りながら、「写るんです」を取り出し、巻き上げノブをまわす。シールド越しにカメラを覗きシャッターを切る。とてもスリリングである。仕上がりが楽しみだ。

 鹿児島市に向かう通勤車で、R10号は混雑している。楽しくない。

 7月号のオートバイ雑誌に、モンキー用電動ターボの記事が載っていた。鹿児島県のメーカーだった。非常に興味深い記事で、価格も手頃、付けてみたくなるような一品であった。2度程電話をしてみたが、話し中でつながらない。かなりの反響だと勝手な解釈をした。

 記事の連絡先に、電話をして訪ねてみることにした。愛知県からオートバイで来たことを話し、実物を見せくれるか頼んでみた。快く承知してくれ、近くの神社まで、迎えを出してくれた。出迎えは、もちろんマイク電動ターボ装着のモンキーであった。

 午前9時30分マイクに到着。店舗を構えているのかと思えば、アパートである。駐車場には、迎えに来てくれたモンキー、ジャズ、SR400 が止めてある。マイクの主人は、ロン毛の茶髪、髭をたくわえ、40代前半といった感じであろうか。

 迎えにきてくれたのは、彼の息子らしい。息子も耳ピアスにロン毛とおちゃめな親子であった。

 雑誌の記事を見て愛知県からモンキー自走で鹿児島まで来たことが、えらく気にいってもらえたのか、電動ターボの仕組み、新製品の予定、いろいろな話を聞かせてもらうことができた。彼のモンキーを試乗させてもらった。仕様はジュンの80ccキット、ハイカムにターボユニット、オイルクーラー。外観はノーマル状態だった。

 来た道を、大通りに向かう。デイトナ製のターボスイッチをオンにするとその効果が体感できた。しかし、ノーマルのシート、ハンドルはどうもしっくりこない。

 戻ってくると、電話に出てくれと頼まれた。京都のメーカーにターボの感想を聞かせて欲しいそうである。少しオーバーに言っておいた。

 彼のモンキーのハンドルに見たことのない、メーターが付いていた。聞くと、自転者用デジタルスピードメーターだそうである。仕組みは、ホイルにつけた磁石の回転をセンサーで感知し、速度表示に変換している。タイヤの外径は、ミリ単位で設定でき、オドメーター、トリップメーター、最高速度、平均速度等すぐれ物の装置である。どこに売っているかと尋ねると、近くのホームセンターに売っているそうである。愛知県では、見たことがなく、九州土産に欲しくなり、場所を教えてもらおうとすると、彼は息子さんに買いに行かせてくれた。

 待っている間、彼の部品が散乱した部屋にお邪魔し、発売予定の機械式ターボチャージャーの説明を受けた。息子さんがホームセンターから帰ってくると、彼は飲み物を買ってくるようにと、また使いに行かせた。後で息子は、僕たちに人使いの荒い親だとぼやいていた。マイク製品のテストライダーは息子で、セッティングを変える度に、モンキーに乗らされるそうである。

 メーターは、キットになっており、組み立てが必要であった。彼は、私がこれからつけてあげようと言い、組み立て始めた。組立て、取付けに1時間ほどかかったであろう。 彼は、見本に取ってある在庫のターボユニットを付けて行くかと言ってくれた。愛知まで帰るのにはまだ 500km以上はある。データが欲しいそうである。

 これを付けて帰れば、うけること間違いないと思い、お願いすることにした。

 九州でのモンキー改造が始まった。

 ケイヒンPC20キャブレターを外し、取付け箇所の加工をする。ターボスイッチは、彼のジャズから取り外した。ユニットをマニホールドとキャブレターの間に取り付ける。

 彼のモンキーのメインジェットは、85番を入れてあるそうだ。私のは、鳥取で95番を入れてある。迷ったが、85番に変更した。メインジェットの手持ちは、メインジェット屋ができるほど持ってきている。85番ではターボスイッチを切っている時、やばそうな気がするが、ユニットがクランク状に曲がっているため、吸気抵抗がかかるのだと思い込むことにした。また、1時間ほどかかり取付けが完了する。スイッチを入れると、中のファンが接触しているような異音がする。彼は、プラスチック製だからエンジンに入っても大丈夫だと自信ありげに言った。本当に大丈夫だろうか。心配である。あまり私が心配するものだから、彼は内部のネジが緩んでいる可能性があると、ユニットを取り外し、増し締めをした。再びスイッチをオンにする。前よりは小さくなったが、まだ音はする。私は諦めることにした。

 作業が終了し、試運転をしたが、体感できるほどの変化を味わうことはできなかった。距離が短かったためかと思い、これからの旅の楽しみにすることにした。

 予定では、マイクに少し寄って、指宿まで行くはずだったが、5時間もモンキー話に花を咲かせ満開状態になってしまったたため、我々は、鹿児島市からフェリーで桜島を目指すことにした。彼に道を尋ねると、息子が10分程だから道案内をしてくれるという。とても良い息子であった。

 市内を熟知している息子は、せこ道を右へ左へと曲りフェリーターミナルまで案内してくれた。その間、ターボのスイッチを入れたり、切ったりと私の左手の親指は、忙しく動いていた。ターミナルで僕らは、彼と別れた。マイクでの出来事は、九州ツーリングの良い土産となった。突然訪問した珍客にマイクの親子は、昼食もとらずに付き合ってくれ、ジュースを2本も奢ってくれた。九州で一番気に入った親子である。

 桜島行きのフェリーは、10分間隔で出港している。誘導員に従い、乗船する。普通なら停車の後、係員がオートバイを固定するはずなのだが、この船は、違うらしい。何の指示もない、どうやら跨ったままいなくては、いけないようである。桜島は、目の前に見えている。15分程の海の旅を終え、下船する。料金は、後払いのようで、有料道路の料金所のような建物が直ぐにあった。今までに経験したことのない船旅であった。乗船料(通行料の方が正しいのかもしれない。) 300円を支払い、桜島の探索を始めた。山頂へ伸びる道路を上り、展望台に到着。一休みする。札幌ナンバーのオートバイがやってきたので、話しかけると、皆夏は、北海道にやってくるので、自分は、九州にやってきたという。思わず納得してしまった。さいわい、桜島は活動してなく、火山灰にまみれることは無かった。 展望台を降り、桜島周遊道路を桜島口に向け走る。エンジンの調子が良くない。土産物屋の駐車場にモンキーを止め、プラグの焼け具合を見る。真っ白だ。プラグが白く焼けるのは、燃料が薄いためである。このままでは、エンジンブローしてしまうため、メインジェットの交換が必要だ。荷物の中から必要な工具を取り出し、メインジェットを95番に変える。

 日も傾きはじめ、今夜の寝床を探しながら、R220を南下する。エンジンは相変わらず調子が悪い。

大根占町の神川キャンプ場を今夜の宿に決め、受け付けをする。国道の側のためうるさそうだが、旅の日程も後半に突入し、多少の騒音でも眠れる自信はある。私たちの他には、家族連れが1組だけで、夜中まで騒がしいファミリーキャンプ場よりは、ましであろう。 テントの設営をすませ、プラグの確認をする。まだ、白い。手持ち最大のメインジェット 100番に変更し、近くのスーパーに食材の買い出しに出掛けた。昨夜の宮崎牛が忘れられず、今夜のおかずも宮崎牛となった。スーパーの横には、大きなホームセンターが有り、立ち寄ってみた。電動ターボを装着したことにより、前にも増して、キャブレター回りの整備性が悪くなっため、必要な工具を数点購入した。モンキーいじりに懲り出してから、工具にも凝ってしまった。私は、何にでも凝ってしまう質らしい。改造に必要な工具をKTCで揃えたため、工具代もばかにならない。しかし、かつての経験から、工具は多少高価でも、良いものを選んだほうが、部品を痛めないし、長持ちするようである。貧乏ツーリングには、痛い出費であった。

 夕食の準備を始めると、雨がぱらついてきた。屋根のある場所に移動し、アルファー米を炊き、焼き肉の準備をする。飯の支度をしながら飲む缶ビールが私の活力源である。

 肉を焼き出すと、一匹の黒猫が側に擦り寄ってきた。キャンプ場に住み着いている猫らしい。家で飼っている猫に比べ、愛想がとてもいい。御飯におかかふりかけをかけ猫にやると、喜んで食し、暫く私たちの側で、寛いでいた。

黒猫

 近くでバーベキューをしていた家族連れが、夕食を終え、食事の片付けに炊事場に移動すると、彼は、残り物を貰うため、家族連れに近づく。頭のいい猫である。

 肉が焼け、猫を呼ぶとこちらに来た。今度は焼きたての宮崎牛を御馳走した。いつも残り物では、かわいそうである。野生の動物に情をかけては、彼等のためにならないが、のら猫は、事情が彼等とは違う。たまには、御馳走にありついても彼の生活に変化は無いだろう。 しばらく黒猫は、肉を貪り食っていたが、腹一杯になったのか、御飯を残し闇に去っていった。やはり、猫である。犬のようにはなつかない。

 2台のオートバイが、キャンプ場の前に止まり、何か話しかけてきた。たぶんここで泊まれるかとの質問だと思い、両手で丸を作り合図した。彼等は、オートバイを駐車場に止め、両手に荷物を抱え、私たちの所までやってきた。夏休みを利用し、帰省の為帰ってきた福岡生まれの大学生だった。二人で九州をツーリングしているそうである。

 二人のオートバイは、400cc と250cc のオンロードタイプのオートバイである。いい話し相手の鴨がやってきた。私たちは、今回は、こんな小さなオートバイでツーリングをしているが、1100ccのビックバイクも持っていて、北海道も何度もいっている。だとか、どうせ乗るなら中型免許で400 ccに乗るより、無制限の大型自動二輪免許を取得して、リッタークラスのオートバイに乗ったほうが楽しい。とか、5年もビックバイクに乗ると、モンキーの楽しさがわかる等、今まで、九州に来てから話し相手がいなかったのも手伝い延々2時間に渡り、若者に説法をした。説法とは聞こえが悪いが、すべて本当のことである。

 夜も更け、11時を過ぎた。彼等に別れを告げ、テントに戻る、雨は、小降りになっていた。彼等は、テントを持たずに寝泊まりをしているようで、屋根の下に銀マットを敷き、寝袋に潜り込んで寝る様子だった。

 本日の走行距離 157.7km
 昼食   なし
 夕食   宮崎牛 ビール